第二話:約束
- 2020.03.10
- 自作小説
シエルのライブの日、俺は家にいた。元々行く気はなかった。やっぱり辞めたことに後悔の念はあったし、ヒデト達と顔を合わせるのが気まずかったからだ。
うん、絵でも描くか。そう思った時、携帯に電話が鳴った。リアからだ。5年ぶりか。
何の用だろう。
「もしもし、俺だけど」
「話があるの。すぐに来て」
「え」
すぐに切れた。一体何なんだ。まさか俺のせいでメジャーデビューが遠のいた事の復讐か・・・?微かな身震いを感じながら、俺は待ち合わせ場所に向かった。
「一体何のつもりなんだろう・・・?」
訳が分からない。なぜいまさら。しかもシエルのライブの日に・・・嫌な想像が頭の中を駆け廻る・・・
「おまたせ」
現れた。リアだ。5年前と比べて随分と成長しているようだが、面影はちゃんと残っている。思わず見とれていると、
「ライカは全然変わらないね。びっくりするぐらい。あれからどうしてるの?」
どうしたもこうしたも・・・
「特には何も・・・たまに絵を描いてるぐらいだよ。リアは?」
「私は今も音楽を続けてる。ソロなんだけどね。でもなかなかうまくいかないんだよね。やっぱりみんながいないとダメみたい」
そっか。リアは続けてるんだ、音楽。すごいなあ。たった一人で・・・それに比べて俺は・・・
「ごめん、リア。俺があの時あんなことを言わなければ・・・」
そう、俺があの時・・・
「いいよ、ライカ。あの時は私も動揺してて、あんな事しか言えなかったから。ごめんね、5年も連絡取れなくて・・・でも、今日、やっと決心がついたの」
??決心・・・?何のことだ・・・?
「ライカ、一緒にシエルに宣戦布告しよっ!」
・・・は?
「・・・え、それってどういう事・・・!?」
「?そのままの意味だけど?」
予想の遥か斜め上の展開に俺は思わず絶句した。
「いやいや、おかしいだろそれ!宣戦布告って!そもそもあいつらはもうかなりの人気バンドなんだぞ!敵うわけないだろ・・・!」
リアのトンデモ発言に俺は思わず叫んでいた。一体こいつは何を考えて・・・
「だって悔しいでしょ!あいつらだけあんなに人気が出て!ライカは悔しくないの?」
「いや、それは・・・」
それは、思わないことはない・・・確かに俺たちは本当に後少しのところまで来ていた。だが、それを崩してしまったのは俺だ。その後新たに仲間を集めてバンドをあそこまで大きく成長させたのはヒデトだ。その成果は世間に正しく評価されるべきものなのだ。今更俺がでしゃばるような所ではない。
「思わなくはないよ。でも、あの後ヒデトは新たに仲間を集めて必死に努力してあそこまでの人気を得たんだよ。それを今更俺たちがわざわざでしゃばっていく必要はないはずだ!」
俺は思ったことをそのまま伝えた。これは正論のはずだ。しかしリアは引き下がろうとしない。
「それでライカは本当にいいの?だってあんなにライカの歌ってる姿は活き活きしてて、聴く人々を明るい気持ちにさせてくれるのに・・・」
・・・
「私一人でもやるから!」
「おい!」
行ってしまった。あいつは本当にやる気だ。まずいぞ、何とかしないと!
「明るい気持ちにさせてくれたのは、私もなんだけどな・・・」
リアの去り際に言った一言は、誰の耳にも届かなかった。
「あいつは一体何を考えているんだ・・・」
本当にどうしちまったんだ、あいつは。
「まあ、あいつの気持ちも汲んでやれよ」
そこへ突然、長髪で長身の、サングラスをした男が現れた。
「!?誰!?」
「おいおい、忘れちまったのか、俺だぜ、ユウスケだ」
「なっ」
ユウスケ!?一瞬本当に誰だか全くわからなかった。サングラスをしていたし、背もかなり伸びていたし、さらに髪もすごく長くなっていたからだ。だが確かに、サングラスを外すと確かに俺の知っているユウスケの面影が微かに残っていた。
「随分変わったなお前。ていうかライブはどうしたんだよ!もうすぐ始まるだろ!」
「俺らのバンドは本番始まるまでは基本何してても自由なんだよ。ヒデトの方針でね。
メンバーは極力自由にさせてんだ」
「そうなのか」
「お前の影響なんだぜ、ライカ。もう二度とあんな事にならないようにな。メンバーをリラックスさせようとするあいつなりの気遣いなんだと思うぜ」
「・・・」
「それよりなんでリアのやつがお前にあんな話をしたと思ってんだ!あいつはお前にもう一度ステージに立ってほしくてあんな話をしたんだよ!そんなこともわかんねえのか!」
「・・・!!!」
なんだって。全くそうは見えなかったんだが・・・
「けど、俺にはもうステージに立つ資格なんて・・・」
「資格なんざなくたっていいんだよ!!!人前に立って演奏する覚悟さえありゃ、誰だってバンドマンになれるんだよ!!!いいから行けよ!」
どん、とユウスケはリアの走って行った方向に俺を突き飛ばす。そしてライブ会場へと走って行った。
「・・・ちくしょう!ああ、またなってやるよ!ロックバンドのボーカリストに!!!」
俺はリアが走って行った方向へ走り出した。
PS.
あー、こうやって後押ししてくれる人って現実だとなかなかいないですよね。
主人公も彼がいなければ走ってなかったと思います。
いいなあ、こういうの笑
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