第三話:宣戦布告
- 2020.03.11
- 自作小説
俺はリアを追って、シエルのライブ会場に向かって走っている。にしてもすごい数の人だ。5万人は居るんじゃないか。この中で俺は啖呵を切らなきゃならないのか・・・
強烈な恐怖心が襲う。ところでリアは・・・?まだ見つからない。
リアを探しているうちにシエルのライブが始まった。開幕曲は少しの切なさを誘う歌詞と品のあるメロディーが特徴的なロックで、シエルの定番曲だ。ヒデトが歌いだすと観客たちが一斉に声援をあげ、楽器隊たちが幻想的なメロディーを奏で出す。その圧倒的な迫力に、俺は一瞬で飲み込まれていった。そりゃ人気でるだろ、こんだけの圧倒的なオーラ、クオリティ。人気が出ないわけがない。たった5年でここまでうまくなったのか。ヒデト達は。
勝てるのだろうか。俺は。そう思ってふと正面の客席を見た。そこには、この圧倒的な演奏を聴きながらも一切気圧されずに、しかとヒデト達の姿を見つめているリアの姿があった。なぜそんなに堂々と聴いていられるんだ。理解できない。だってこんなに綺麗な演奏なんだ。選ばれた者にしかたどり着けない、凡人にはとても届かない領域。こんな演奏を前に、まだ闘志を消さずにいられるなんて。あいつはどうかしている。そして、そんなやつにいつの間にか魅入られている俺は・・・
2時間程のライブが終わり、ついにヒデト達のインタビューが始まった。観客達が一斉に注目し始める。
「ヒデトさん、ここ、東○ドームのライブを終えてみての感想はいかがでしょうか?」
テレビ局の人が、緊張しながらヒデトに質問する。
「うん、そうだね。こんなにたくさんの人が僕たちのために集まってきてくれたことに感謝してる。僕たちは今とっても幸せです。」
ヒデトは穏やかに、しかしどこか力強く、包み込むような雰囲気で質問に答えている。
あの頃と変わらない、どこか浮世離れしたような不思議な雰囲気。それに圧倒的な人気がついてきてもはやオーラとなって表れている。そして、
「今この会場のどこかで聴いていたかもしれない僕のかつての仲間たちに伝えます。シエルは、きみたちがいたからここまで成長できました。ありがとう。」
と、ヒデトは言った。そのとき、リアが飛び出した。
「わたしたちは、まだ音楽をやめてなんかない!必ずまたバンドを結成して、あなたたちを超えるわ!!!」
その一言を聞いた時、俺の中の熱い感情が目を覚ました。
「そうさ!!!俺はまだ歌を捨てたわけじゃない!!こいつと一緒にバンドを組んで、お前たちを超えてみせる!!!」
気づいたら叫んでいた。なぜだろう、不思議と恐怖は感じなかった。ただ感じたのは、目の前にいる圧倒的な存在を超えたいという、純粋な欲求のみだった。そして同時に、ここから待っているであろう過酷で鮮やかな日々への期待感だった。