第一話:1000年の時を超えた陰陽師
- 2020.04.05
- 自作小説
時は平安、陰陽師の力が全盛だった頃。その中でも最も有力だった平家に陰陽師として仕えていた安部家は、朝廷の用心棒として京の治安を保っていた。一方、朝廷の政治体制に疑問を抱いていた源氏は真っ向から平家と対立し、幾度とない戦に身を投じる事になった。そして最後の戦争、壇ノ浦の戦いで源氏が勝利し、平安の世は終わりを迎える事となった。この歴史は誰もが知るところだろう。だが、この戦いで最も貢献した陰陽師の家名を知る者は現世では殆どいない。
久遠家。それが源氏に密かに戦力として期待され、しかし源氏によってその存在を歴史から消された、安部家をも上回る力をもつ陰陽師の家名である。
壇ノ浦の戦いにおいて、最も戦力として重要だったのは、騎兵ではなく、陰陽師だった。故に、単純に数で勝っていたはずの源氏軍は、平家の陰陽師たちによって劣勢に立たされていた。
「まさか、ここまで平家の陰陽師が強いだなんて・・・!」
「霞姫様、あまり前線に出られては危険です!」
「何言ってるの!ここで私が出なきゃ、みんな死んじゃうじゃない!!!」
霞と呼ばれた陰陽師の少女は、そう言って平家の大軍に向かっていった。
「術式其の3、裂空!!」
霞の前方に大量の小さな石が出現し、それが現代における弾丸に相当する速さで平家の歩兵たちに向かって飛んで行った。
「「ぐああっ!」」
たちまち、20人の歩兵たちの脳天を打ち貫いていった。
「む、源氏め、あ奴らも陰陽師を備えておったのか!仕方あるまい、清明、行ってくれるか?」
「もちろんでございます、宗盛様。すぐにあの娘を討ち取って見せましょう」
源氏にも陰陽師がいる事を察知した平家の大将、宗盛は、すぐさま、平家の最強の陰陽師である安部清明を呼び出し、迎撃の命令を発した。
「「うわあああ!!」」
「「ひいいいい!!」」
50人程屠った頃に、霞は清明と相対した。
「君はなかなか強い霊力を持った陰陽師のようだ」
「・・・!あんたは・・・!!」
「術式其の13、裂光覇」
「・・・!!」
清明は霞が放った裂空の5倍はある大きさの石を霞目掛けて放った。
「霞様!!!ぐああ!!」
霞の従者が身を挺して霞を庇った。そのため霞は危機一髪で助かったが、従者は無残にも弾け飛んだ。
「清明!貴様・・・!!」
霞は激昂する。
「あんただけはこの身に替えてでも殺す!!!術式其の20、逢花・・・!」
霞は自らの命を代償に、陰陽師最強の術式、『逢花』を発動した。霞の体が大蛇のような姿に変わり、清明を薙ぎ払う。その余波で、平家の兵士、陰陽師たちもひとたまりもなく蹂躙された。
「な、なんだあの化け物は・・・!だ、だれかあの化け物を倒せ!!」
宗盛がたまらず動揺する。しかし、誰一人として大蛇となった霞を倒せる者などいるはずもなかった。
こうして、源氏は平家に勝利した。
「ごめんね、みんな・・・後の事は頼んだよ・・・ああ、でももっと生きたかったな。
今度生まれてくるときは、陰陽師としてじゃなく、普通の女の子として生きたいな・・・」
時は現代。
「えーこうして、源氏は主に源義経の活躍により壇ノ浦の戦いで平家に勝利したのです。今回の講義はここまでとします。来週までに課題をやってくる事。では、解散」
「「やっと講義おわったー」」
「「おいみんな、ゲーセンにでもいこーぜ」」
「「いいねそれー!」」
学生たちが教室を出ていく。俺、櫻井冬馬は少し今日の授業の内容が気にかかっていた。
「まあ確かに、あの状況なら源氏が平家に勝つのは必然だよな。でもなんかひっかるんだよなあ・・・」
「どうしたの、冬馬?なんか考え事?」
「いや、別に・・・今日の講義の内容がどうしてもなんか後から作られた話に思えて気になってただけだよ。さ、香奈、帰ろうぜ」
考え事をしていたところに、同じ歴史学科の幼馴染、久遠香奈が話かけてきた。
俺たちは小学校以来、同じ中学高校大学に通っている、ちょっと世間では珍しいくらいの腐れ縁だ。昔からこいつは少し天然で、なぜか占いがよく当たる。前に友達のバイト先が1ヵ月後に閉店になる事を当てた時は、こいつは本物だと思った。
「ホントに冬馬は歴史が好きだよねー。まあ香奈も割と好きだけど、冬馬ほどじゃないなあー」
「ほっとけ」
「あははー」
まあ、歴史が好きなのは事実だ。今の世がどういう経緯で成り立っているのかを知れば、この先の未来もある程度は予想できるような気がするのだ。それはとてもロマンがある話じゃないか。
「あ、香奈、ちょっと行きたい所があるんだけど、寄っていいかな?」
「?いいよ別に―」
俺は香奈と当時壇ノ浦の戦いがあった場所を一望できる丘へ向かった。ここなら少しはこの何となく感じた違和感の正体がわかるかもしれないと思ったからだ。
「孤島だったんだね、壇ノ浦の戦いがあった場所」
「そうだな、海上を制圧した方が有利になりそうな地形・・・だからこそ海上の源氏軍の大将、源義経が英雄視されたわけか」
だとしても、平家の本拠地はこの孤島だったはずだ。かなりの兵力を蓄えていたに違いない。この地形の場合、いくら攻める源氏軍の方が数が多かったにしても、そう易々と堕とせるとは思えない。何か他の要因があったはずなんだ・・・それは一体なんだ?
そこまで考えたとき、香奈の様子がおかしくなっていた。
「うあああああ!!!」
「香奈!?どうした!!」
雷に打たれたかのように香奈の体は痙攣し、髪が伸び、銀髪になり、まるで巫女のような服に、頭に平安時代の貴族が被っていたような帽子をのせた少女に変化した。
「!?君は、誰・・・?」
その少女は、少し戸惑ったような様子だったが、すぐにうーんと考えたような素振りを見せ、
「えーと、ここは?」
と、逆に質問を返してきた。
俺は、戸惑いながらも、
と、なんとか返した。
すると少女は、
「壇ノ浦・・・はっ清明は!?ほかのみんなは!?一体どこに消えちゃったの?というか私、なんで生きてるの!?」
と、非常に狼狽えだした。俺は訳が分からず、
「君は何を言ってるんだ?壇ノ浦の戦いなんて、もう1000年近く前の戦じゃないか!
なんなんだよ君は!というか香奈はどうしたんだ!」
と思わず責めるような口調になってしまった。すると銀髪の少女は、落ち着いた様子で、
「そういう事か・・・まさか陰陽術は時間の流れすらも跳躍するとはね・・・」
と、訳の分からないことを言い始めた。
「は?陰陽術?君は一体何を言ってるんだ・・?」
俺が聞くと、少女は何かを悟った様な表情で話す。
「私は霞。1000年前に壇ノ浦の戦いで自らの命を代償にして平家に勝利し、この世を去った陰陽術使いよ」
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