第六話:ライブハウスのキーボーディスト
- 2020.03.24
- 自作小説
といっても当てが全くない。
「で、次のメンバーのあてはあるのか?」
「ない!」
「まじかよ・・・」
こりゃまいったぞ・・・
「まあ、なんとかなるさ」
「ええ・・・」
「まずはライブハウスに行こうぜ、俺の日本の友達が今日ライブやるんだ」
「そうなんか」
俺たちは近所のライブハウスに行くことにした。
「はい、入場チケットになります」
「うわ、ドリンクバー代の方が高い…」
ライブハウスあるある。ドリンクバー代の方が高い。
「今回のライブは色んなバンドが集まってて、それぞれ2.3曲ずつ演奏するんだ」
「へえー」
「ジャンルもバラバラで、ロックバンドはもちろん、アイドル系、バラード系、アニソン系、そして…いや、それは聴いてからのお楽しみだな」
「えっそれはどういう…」
「まあ、聴いてみようぜ」
程なくして最初のバンドの演奏が始まった。
「今日は俺たちのライブに来てくれてありがとう!まあ、他のバンド目当てもいるだろうけど…今日は楽しんでいってくれよ!!!」
最初のバンドは流行りのjpop系のバンドだった。彼らの演奏に合わせて、観客が腕を掲げる。みんな彼らの演奏を心待ちにしていたようだった。曲調は軽快なポップで、ノリやすく、自然と心が軽くなったかのような感覚がした。
「最初からレベルが高いな…」
「だろ、ここのライブはみんなそれなりに上手いやつらが集まってるんだ。勉強になると思うぜ」
2番目はアイドル系3人組グループの演奏だった。いつの間にか観客の層が変わっていて、頭にハチマキを巻いている人達もいる。
「今日は私たちのライブに来てくれてありがとう!!今日もみんな、張り切って応援してね!!!」
「オオォォォ(゚ロ゚*)(゚ロ゚*)」
センターの娘が開幕の挨拶をする。それに合わせてファン達も声援を送る。このグループもかなり人気があるようだった。
曲調は意外にもロック調で、これまたノリやすい。センターの娘がボーカル、左の娘がギター、右の娘がキーボードという構成だ。全体的にバランスが良く取れている。…あれ、アイドルというより普通にガールズバンドなのでは?
…なるほど、アイドルという皮を被ったロックバンドだったのか。
そして最後の1組が登場した。
…………?
なんだ、これは…
現れたのはキーボード1人、それも女の人だ。かなりキワモノな格好をしている。あれは…水玉模様?シャボン玉のような透明な球体をたくさん纏った衣装。金髪のショートボブヘア。かなり濃いメイクをしているが、不思議とくどさを感じないのは素の顔立ちが綺麗に整っているからなんだろう。背は低いが、全体のプロボーションが整っていて、なんともいえないオーラを放っている。観客達も今までとは何かが違うと感じ取ったらしく、このアーティストの演奏が始まる瞬間を心待ちにしている。
そして、演奏が始まった。これは…ポップス?
なんとなくエジプトを思わせるような不思議な音色で、一瞬であのアーティストの世界観に引き込まれていった。そして、おもむろに歌い始めた。英語だ。完全にネィティブの人の。そして圧倒的なまでの存在感を放つ声色。聴くものをたちまち虜にしてしまいそうな凄みがある。この人はやはり外国人だったのか。いやそれとは関係なく、この人の作り出す独特な世界観は、聴く人の心に響き渡っていく。音楽は国境を超えると言うけれど、ここまでとは。演奏が始まると観客が一瞬静まり返ったが、すぐに手を叩いたり、歓声が上がった。演奏が終わると、そのアーティストは「The world is rotten, but your cheers have reached my heart. Thank you(この世の中は腐ってるけど、あんた達のその声援は私の心に届いたわ。ありがとう)」と言ってステージを後にした。
凄いな、と思った。単純にまずそう思った。これはもっと有名になるだろうな、と直感で感じた。このセンスの良さは、他に見たことがない。
「あの人、うちのキーボードにしよう!」
「は?」
リアが突然そんな事を言った。毎度の事だが、この女の頭のネジはアンドロメダ星雲かどこかに置いてきたらしい。
「いきなり何を言い出すんだ。」
「だって、あの人が入ってくれたら、間違いなく私達はシエルを超えられると思うの」
「そりゃあ…」
「勧誘してくる!」
「おい、確実に相手にされないぞ!」
また行ってしまった。なんでこうもあいつは遠慮ってものを知らないんだ。
「後先考えないんだよな…あいつは」
「まあ、ちょっと様子を見てみようぜ」
リクが面白そうに笑っていた。
「なんかあったらどうすんだよ」
「いや、多分面白い事になると思うぜ」
「?どういう事だ?」
リクの意図が読めない。どういう事なんだ。
「あの、うちのバンドに入ってくれませんか??」
「?あなたは…」
「元々ボーカルをやってた者です。今はこいつらと組んでます」
「ああ、あなた達は、この前ライブのステージで、喧嘩を売ってた連中ね」
うう……やっぱり覚えられてたんだ。
「面白い連中ね!」
ええ!?
「でもそう易易と入ってはあげられないわね。条件があるわ」
んん??
「次にあるライブで、私よりも多くの人達をファンにしたらバンドに入ってもいいわ」
「……わかりました!!ありがとうございます!」
「礼を言うのはまだ早いわ。まだバンドに入ると言ってないわよ。余程の自信があるようね」
「必ずバンドメンバーにします!!!」
これまたいつもの事。何を根拠にそんな自信が…
「彼女、よほど君を信頼してるみたいだね」
「え、俺?」
「君の歌唱力に絶対の信頼を置いているから、ああいう事が言えるのさ」
「…」
そんな事を言われても。
「さあ、そうと決まればライブの準備よ!!」
「……やれやれ」
俺は憂鬱になりながらも、確かな胸の高鳴りを感じている自分に戸惑っていた。
PS.キーボーディストのイメージです。
楽曲のイメージです。
-
前の記事
ニーアオートマタをプレイ…したかった 2020.03.23
-
次の記事
GATSBY(ギャツビー)のすきカミソリを使ってみた感想 2020.03.27